2021.05.19
形ばかりの「改革」は破綻する
2021年4月14日に東芝の東谷社長が辞任し、会長で前社長の綱川氏がまた社長に再登板することの発表がありました。東芝は東京オリンピックでカラーテレビが本格的に普及したので、翌年の1965年にカラーテレビ専門工場を深谷に操業させて、多くの雇用を生み、深谷市の発展に大きく貢献した企業です。その深谷事業所も2011年にはカラーテレビの生産から撤退して深谷工場は僅かな人員を残すのみになっていましたが、昨年9月事業所自体を閉鎖しました。
かつての東芝といえば、日本を代表する超優良企業でした。2015年に不正会計が発覚し、2016年には9567億円の巨額損失を計上して債務超過に陥りました。2006年に原子力発電所の建設をてがけるウエスチングハウス社を6400億円かけて買収したのですが、それがとんでもない会社で、簿外債務や多額の保証債務を抱えた会社だったのです。新しい収益の柱となるはずだった原子力発電所の建設事業は、2011年の東日本大震災における原子力発電所の事故で今後の発展は見込めません。その当時その投資額は相場の3倍といわれていたのですが、巨額のマイナス資産を多額の資金をつぎ込んで購入したということです。
WH社を買収後の東芝はまさに「急坂を転げ落ちる」ように、経営状態が悪くなりましたが、ここに来て社内の権力闘争で社長が辞任したわけです。
東芝のガバナンスをめぐっては、この間の日本の経営を象徴するようなガバナンスの「改革」が行われています。2003年に東芝の取締役の構成は社内出身者が12人で社外取締役が4人でしたが、現在の取締役は社内取締役が1人で社外取締役10人という状態になっています。日本の経営についてはずいぶん前から「ガバナンス改革」が必要だとして、「社外取締役の登用」や「株主利益重視」が叫ばれてきました。そしてこの間に日本の上場企業の役員構成は大幅に変更されて2015年には社外取締役が1/3を超える企業は12%しかなかったのに2020年には74%の企業が1/3の社外取締役を抱えることになりました。
そしてその結果起こったことは「無責任経営」の蔓延です。東芝のようにほとんどの役員が社外取締役であったとすれば、愛社精神は当然希薄になるだろうし、現場の抱える問題や社員の心情についても疎くなるのは当たり前です。
「グローバルスタンダード」が声高に叫ばれだしてから、日本企業はおしなべて元気がなくなりました。そして世界で超高収益な起業の多くはファミリーカンパニーなどのオーナーが強烈な個性を持っている企業です。東芝の株主を見るとアルファベットばかりが並んでいて、もはや日本の企業ではありません。
「グローバルスタンダード」に「形ばかり合わせる」ことを「改革」というのではありません。改革の基本は現実をしっかり分析して、「責任を負うもの」が「リスクを負ってチャレンジ」することでなければなりません。そしてその「改革」は、単なる期待に基づく「賭け」ではなく、今までの歴史の上に築くものでなければなりません。