〜 お気軽にお問い合わせください。 〜

〜 オフィスレター 〜

2024.08.26

倫理資本主義の時代

ブログ 読書の部屋

 マルクスガブリエルが最近書いた本に「倫理資本主義の時代」という本がある。
 この本は、近代の文明モデルが「先例のない危機」に陥っている現状をどう打開したらいいのかということについて模索している書のひとつといえる。現在の資本主義がもはや限界にきていることについては、多くの人が語っているところであるが、「それではどうすればいいのか」ということについて発言する人は少ない。

 マルクス主義者は金銭的貪欲を生んだのは資本主義であるから資本主義を打倒すれば貪欲は消滅すると主張するが、経済制度が人間の欲をコントロールできないことはソビエト社会主義共和国連邦の実験で実証済みのことである。「革命を起こせば解決する」という考え方は大変魅力的であるが、革命が深刻な「混乱と虐殺」を伴ったことは歴史的事実である。

 亡くなってしまったが、ピーター・ドラッカーは、「マネジメント」こそが人類を救うと考えていたようであるが、このマネジメントも「正しくマネジメントする人」が必要であり、「正しくないマネジメント」が現在多くの国で行われているからこそ世界中で紛争も飢餓も無くならない。それどころか地球資源をお金のために競って奪い合い、地球環境に深刻で回復不可能なダメージを与えているのが市場経済を基盤とした利潤追求マネジメントである。

 マルクスガブリエルは、企業が「金銭的な利潤追求」ではなく「本当の利益」「長期的かつ持続的な真の経済的成功」を目指す「倫理資本主義」の時代にすべきだと主張するのだ。企業が「真の利益=善行」を目指すべきだというのだが、これはドラッカーが言っていた「顧客の創造」という概念とあまり変わらないように思える。
 革命を起こすのではなく、資本主義のままでその目的を経済的な利益から「真の利益」にチェンジするということは簡単であるが、問題はどうしたら企業がそうなるかということだ。ドラッカーがマネジメントを提唱してから数十年経過するが、顧客創造を目指す企業が存在しても、それ以上の経済的利益だけを追求する企業も増え続けている。

 コリン・メイヤーというオックスフォード大学の経営大学院教授が「株式会社規範のコペルニクス的転回」という本を出しているが、これは素晴らしい提案をしている。すなわち現在の財務諸表は、金銭的な資産しか問題にしていないため、利益は経済的利益しか算出されず、結局は経済的利益獲得競争となり、地球環境はもはや危機的な状態でありながらも破綻に向かって、企業は経済的利益を追求している。
 コリンメイヤーは、社会や環境の改善に貢献する行為も会計上の評価をすべきだと主張する。環境や社会の利益を侵害して経済的利益を追求することは、マイナスの利益として評価し、環境の維持改善や社会貢献に対しての投資はプラスの試算として評価するということだ。
 確かに、倫理的だとか道徳的だとか言ったところで、それが会計的に表現されなければ、市場経済を前提にする限り絵に描いた餅にすぎないだろう。

 地球環境はもはや時間的な余裕はなく、格差拡大ももはや天文学的較差となっており、飽食が蔓延する中で飢餓人口はなかなか減らないという現代のなかで、「世界平和や地球環境よりもナショナリズム」という雰囲気が蔓延している。マルクスガブリエルが「倫理資本主義」というお題目を唱えても虚しいところであるが、私たち中小企業経営者が「真の利益の追求」すなわち「顧客の創造」をすべき時代であることは間違いないと思う。

«