2020.01.09
寅さんのような会計事務所
久しぶりに映画を見ました。「男はつらいよ」です。最初から最後まで泣いてしまいました。やはり寅さんはいいですね。
人情にあふれる町があり、暖かい家族があり、人と人との触れ合いがある。寒い風の中で暮らしは楽じゃないけど、人に恋をすることや、友情をはぐくむことや、子育てで悩むことや、兄弟げんかすることなどしながら小さな共同体があった。
ところが今では、地方都市の商店街は何処も彼処もシャッター通り、かつて賑わった「とらや」のような店はほとんど全滅しています。デジタル化による産業構造の変化に加え、本格的な人口減少社会が進展しているのですから中小零細企業が生き残るのはたいへんです。少し財布の中身は増えたかもしれませんが、心の中は素寒貧になってきました。
なぜ、人と人との触れ合いがなくなってしまったのか?お金を追い求めたマネー資本主義が、利益ばかりお金ばかり追求してきたので、大切な何かが消耗していった。
東京だけに人口が集中し、大東京はめまぐるしく変化しています。いつの間にか高層ビルが立ち並びました。ビル風の吹きすさぶ道を、忙しく歩く多くの人々は、何年たっても触れ合うことはありません。東京では孤立して働く人の働くエネルギーを、ブラックホールのように吸収してしまいます。だから、恋をする余裕も自然と触れ合う時間もありません。だから一人の女性が生涯で子供を産む人数(合計特殊出生率)が東京は全国最低の1.15なのです(1位沖縄1.86、40位埼玉1.31)。
東京は地方から若い人を集め、その若い人たちを働くことだけに消耗させる。その結果、恋や出産や子育ての機会が奪われる。東京というブラックホールが地方の若いエネルギーを吸い取り、少子高齢化にドライブがかかり、「男はつらいよ」の世界は絶滅の危機に瀕しています。
商店街とは「単なる商業集積地区」ではないのだ。単なる商業集積地区ならば、ショッピングセンターの方が便利でキレイで合理的である。でもショッピングセンターは残さなければならないものではなく、単なる消費の場所でしかない。
故郷が重要なのは、商店街が重要なのは、そして地方の中小零細企業が重要なのは、そこに一人の命を超えて存続する意味や価値があるからである。そしてその意味や価値は、東京のオフィス街で働くことでは実現できない生き方の価値を実現できる場であるからこそなのです。それは、与えられた労働ではなく事業を起こす、起業する価値があると思わせる場、起業すれば必要な企業になれると思わせる活気がある場、が商店街なのだ。
そしてその商店街が存続する、または再興するためには、地域を愛する、思い出を愛する、人と人のふれあいを大切にする、人情を大切にする、お金よりも信頼を大切にする、そんな起業家が集まる場所でなければならない。
地域の中小企業のサステナビリティ(持続可能性)は、かなり厳しい。だからこそそんな中小零細企業が少しでも長く存続する手助けをしたい。
ゴーストのような古い企業が日本が新しく生まれ変われない大きな原因である、だから早く淘汰されるべきだという市場原理主義者の主張がある。しかし、そうではないのだ。市場原理主義者のマネー資本主義の行き着くところは、東京にますます集中して日本人の絶滅を早める道である。地方があって都市がある、地方のない都市は存続しえない。
だから寅さんのような事務所が必要だ。そんなことを思った「男はつらいよ」でした。